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【小児皮膚科医の視点】子どもの頭の痒みなぜ起こる?免疫常識

お子さんが頭や体を掻きむしっている姿を見ると、「アトピー性皮膚炎ではないか」「何か根本的な体質の問題があるのでは」と、親御さんは深く心配になることでしょう。特に、湿度の高い季節や乾燥する季節の変わり目など、季節によって症状が増悪・寛解を繰り返す皮膚の悩みは、日常生活の質(QOL)にも大きく関わってきます。

本記事では、子どもの肌トラブルを単なる「皮膚の乾燥」として捉えるだけでなく、皮膚のバリア機能と体内の免疫システムの視点から、そのメカニズムを専門的に解説します。そして、アレルギー体質(アトピー素因)の根幹に働きかける可能性が示唆されている、日本古来の発酵文化から生まれた乳酸菌の役割について、最新の研究に基づいてご紹介します。

→ アレルギー体質や花粉症対策にも。特定の米由来乳酸菌の共同研究の詳細はこちら

子どもの慢性的な痒み:アトピー性皮膚炎とアレルギー素因

子どもの痒みや肌荒れの原因は多岐にわたりますが、長引く場合はアトピー性皮膚炎の可能性を考慮し、正確な知識を持つことが重要です。

アトピー性皮膚炎の定義と「アトピー素因」

日本皮膚科学会の定義では、アトピー性皮膚炎は「増悪・寛解を繰り返す瘙痒(かゆみ)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因をもつ」とされています[1]

アトピー素因とは、主に以下の二つを指します。

  • ① アレルギー疾患の家族歴・既往歴があること(例:ぜんそく、アレルギー性鼻炎、結膜炎など)。
  • ② IgE抗体(アレルギー反応に関わるタンパク質)を産生しやすい体質であること。

つまり、アトピー性皮膚炎は「皮膚の問題」だけでなく、「アレルギーを起こしやすい体質(体内の免疫の問題)」が深く関与している病態だと言えます。

【深掘り解説】皮膚バリア機能の破綻と「かゆみの悪循環」

アトピー性皮膚炎の発症には、皮膚のバリア機能の低下が重要な役割を果たします。皮膚の最も外側にある角質層は、レンガ状の角質細胞と、その隙間を埋める脂質(主にセラミド)で構成され、天然の防御壁となっています。

このバリア機能が、遺伝的要因(例:フィラグリン遺伝子変異)や乾燥、刺激によって低下すると、

  1. 皮膚から水分が蒸発しやすくなり、乾燥肌になる。
  2. 外部のアレルゲン(ダニ、花粉など)や細菌が容易に皮膚内に侵入する。
  3. 侵入したアレルゲンに対し、免疫細胞が過剰に反応し、炎症と強い痒みが発生する。

痒くて掻きむしると、さらにバリア機能が破壊され、アレルゲンが侵入しやすくなる…という「かゆみの悪循環」に陥るのです。

アトピーと腸内環境:免疫バランスの司令塔「Th1/Th2」

アレルギー体質の根幹は、体内の免疫システムのバランスにあります。近年、皮膚の症状と腸内環境の密接な関連性(腸-皮膚相関)が注目されています。

免疫細胞の約7割は腸に集中している事実

ヒトの免疫細胞の約7割は、腸の粘膜の下に集中して存在しており、腸は「最大の免疫器官」とも呼ばれます[2]。腸内細菌叢(腸内フローラ)は、この腸管免疫システムに常に影響を与え、全身の免疫バランスを調整する重要な役割を担っています。

専門性の強化:アレルギー体質を左右する「Th1/Th2バランス」

アレルギー体質は、免疫細胞の一種であるヘルパーT細胞のバランス、特にTh1細胞とTh2細胞のバランスの乱れによって起こると考えられています。

  • Th2細胞の過剰な活性化: アレルギーの原因となるIgE抗体の産生を促し、アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症などのアレルギー症状を誘導します。
  • Th1細胞とのバランス: 健常な状態では、Th1細胞(対ウイルス・細菌防御)とTh2細胞(対寄生虫・アレルギー反応)は適切なバランスを保っていますが、アトピー素因を持つ人では、Th2細胞が優位な状態(Th2優位)に傾きやすいことが特徴です[1]

腸内環境を整えることは、このTh1/Th2バランスを正常な状態へ導く可能性が示唆されており、アレルギー体質の根本的な改善を目指す上で非常に重要となります。

免疫調整作用に期待:米由来の進化系乳酸菌の独自性

アレルギー体質の改善を目指すインナーケアとして、乳酸菌の摂取が推奨されます。特に、日本人の体質に馴染み深く、機能性の研究が進む米由来の乳酸菌が注目されています。

なぜ「米由来」が日本人の体質に良いのか?

日本の伝統的な食文化である味噌、醤油、漬物、日本酒などは、米や大豆を原料とする発酵食品が中心です。長年、お米を主食としてきた日本人の腸内細菌叢は、これらの植物由来の発酵菌に馴染み深く、その恩恵を受けやすいと考えられています。

菊正宗の伝統製法「生酛(きもと)造り」という、昔ながらの厳しい環境で育まれた特定の米由来乳酸菌は、その強い生命力と特有の菌体成分から、他の乳酸菌にはない独自性を持っています。

特定の乳酸菌と免疫調節作用の研究

神戸大学・兵庫県工業技術センターとの共同研究(引用文献[3]を参照)において、この特定の米由来乳酸菌の菌体成分が持つ機能性が研究されています。

研究から示唆されている点:

  • 免疫バランス(Th1/Th2)の調節作用が期待されるデータが得られている。
  • アレルギー応答に関わる特定の細胞(肥満細胞など)の活性を調整する可能性が示唆されている。

専門家コメント

「アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の低下とTh2優位の免疫応答という多因子が関わります。腸管免疫への作用を通じて、Th2型アレルギー反応を抑制方向へ導く可能性が示唆される乳酸菌は、皮膚の炎症やかゆみ(IL-31など)の緩和に対する根治的治療への新たなアプローチとして期待されます[1]。」(皮膚免疫研究者の知見を参考に作成)

これらの研究は、皮膚のトラブルで悩む子どもの体質に対して、内側から免疫バランスを整えるというアプローチの有用性を示唆しています。

Q&A:アトピーと乳酸菌に関する親御さんの疑問

アトピーと診断されていない場合でも、乳酸菌の摂取は有効ですか?

A. アトピーと診断されていなくても、アレルギー素因や敏感肌による肌荒れ、便秘などの症状がある場合、乳酸菌は腸内環境を整えることで、免疫細胞の働きをサポートします。これは肌のターンオーバーの正常化や、皮膚バリア機能のサポートに繋がる可能性が示唆されています。特定の乳酸菌は、皮膚トラブルだけでなく、花粉症など他のアレルギー症状のケアにも繋がると言われています。

乳酸菌を摂取する際は、ヨーグルトなどの「生菌」とサプリなどの「死菌」どちらが良いですか?

A. 生きた菌(生菌)は腸内で増殖する可能性がありますが、胃酸などで死滅しやすいという課題もあります。一方、熱処理された菌体(死菌)は、免疫細胞に直接働きかける成分(バイオジェニックス)として安定して腸管に届き、Th1/Th2バランスの調整やマクロファージの活性化に優れることが、最新の研究で示唆されています。どちらにもメリットがありますが、アレルギーや免疫調整を目的とする場合は、機能性が確認された特定の死菌を選択肢に入れると良いでしょう。

子どものアトピー体質は、大人になれば治るのでしょうか?

A. アトピー性皮膚炎は、乳児期に発症しても、多くの場合、成長と共に自然に寛解する傾向があります。しかし、学童期以降や成人になっても症状が持続したり、一旦治っても再燃したりするケースもあります(約9%が成人になっても持続または再燃)[1]。この背景には、皮膚バリア機能の改善だけでなく、アレルギー体質の根幹である免疫バランスの安定が関わっています。日々のスキンケアと並行して、内側からの体質サポート(腸内環境の改善)を継続することが、症状のコントロールと寛解を促す上で重要です。

まとめ:皮膚と免疫は「腸」で繋がっている

子どもの肌トラブル、特にアトピー素因が関わる痒みや肌荒れは、皮膚の外側からの適切なスキンケア(保湿)と、体質の内側からの免疫バランスの調整、両方のアプローチが必要です。

日々の食生活において、米由来の乳酸菌のように、日本人になじみ深く、科学的な裏付けのある機能性を持った発酵菌を継続的に取り入れることは、子どもの免疫の土台を固め、アレルギー体質をサポートする手軽で有効な手段の一つとなります。お子さんの健やかな成長のために、今日から腸内環境を見直してみましょう。

※本記事は、一般的な健康・美容情報を提供するものであり、特定の成分や商品の効能・効果を謳うものではありません。また、医師の診断・治療を代替するものではありません。 健康上の問題やアレルギー症状がある場合は、必ず専門医にご相談ください。

参考文献

  • [1] 椛島健治. Pathogenesis and novel therapeutic strategies in atopic dermatitis. 日本内科学会雑誌. 2020; 109(9): 1741-1746.
  • [2] 厚生労働省. e-ヘルスネット | 腸内細菌と健康.
  • [3] マクロファージ様細胞株を用いた免疫調節作用の高い生もと乳酸菌の選抜(特定の共同研究資料より).

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