「うちの子は、風邪をひくと決まって肌が荒れる」「高熱が出るとアトピーが一時的にマシになる気がする」—子どものアレルギー体質に関する、こうした複雑な現象に頭を悩ませる親御さんは少なくありません。アトピー性皮膚炎は、皮膚のトラブルとして現れますが、その根本には体内の免疫システムと、皮膚のバリア機能の異常が複雑に絡み合っています。
本記事では、風邪とアトピーの相関関係の裏にある免疫学的なメカニズムを深く掘り下げます。そして、子どもの健やかな成長と、アレルギー体質からの卒業を目指すために、今知っておきたい「インナーケアの新常識」、特に日本人の食生活と親和性の高い特定の乳酸菌が持つ可能性について、専門的な知見を交えて解説します。
→ アレルギー体質の鍵を握る「Th1/Th2免疫バランス」と、米由来乳酸菌の研究に関する詳細はこちら
アトピーの根源:免疫の過剰反応を司る「Th1/Th2バランス」の乱れ
アトピー性皮膚炎の発症メカニズムを理解するには、体内のヘルパーT細胞(Th細胞)が担う免疫応答のバランスを知ることが重要です。このバランスこそが、アレルギー体質かどうかを分ける大きな鍵となります。
アレルギー疾患の共通点:なぜ免疫は過剰に反応するのか
私たちの体には、外部から侵入する異物と戦うための「免疫システム」が備わっています。このシステムは主に、Th1細胞とTh2細胞という二つの司令塔によって制御されています。
- Th1細胞(細胞性免疫): ウイルスや細菌などの病原体(主に感染症)への攻撃を担います。免疫応答を活性化させ、防御力を高める役割があります。
- Th2細胞(液性免疫): 花粉やダニといったアレルゲンに対する反応を担い、IgE抗体を産生することでアレルギー反応を引き起こします。
アレルギー体質、またはアトピー素因を持つ人は、遺伝的な要因や環境の変化により、このバランスがTh2細胞優位に傾いています。このアンバランスな状態では、本来無害であるはずのアレルゲンに対してもIgE抗体が過剰に作られ、皮膚で慢性的な炎症(アトピー性皮膚炎)や、気道で炎症(喘息)を起こしやすくなります[1]。
【専門解説】風邪による「一時的な改善」と「悪化」の科学的理由

風邪をひいたときにアトピーが改善したり悪化したりする現象は、免疫システムの複雑な攻防の結果です。
風邪でアトピーが「良くなる」メカニズム:Th1優位への緊急シフト
風邪の原因となるウイルスや細菌は、主にTh1細胞が主導する免疫応答(細胞性免疫)の標的となります。体が病原体と戦う際、免疫システムは生命維持に直結する感染防御(Th1応答)を最優先するため、一時的にTh2細胞が主導するアレルギー応答が抑制されることがあります。これはサイトカインという情報伝達物質のバランスが、Th1応答優位に傾くことによって起こると考えられています[1]。
しかし、この症状改善はアトピーが根本的に治ったわけではなく、免疫の火事場での対応にすぎません。風邪が治ると、多くの場合、免疫バランスは元のTh2優位な状態に戻ってしまいます。
風邪でアトピーが「悪化する」メカニズム:バリア機能の破綻
一方、風邪による発熱や脱水は、アトピー患者の皮膚にとって大きなストレスとなります。アトピー患者の皮膚は、フィラグリン遺伝子変異やセラミド不足により、元々バリア機能が低下し、体内の水分が失われやすく、外部の刺激を受けやすい状態です[1]。
風邪による全身の脱水が加わることで皮膚の乾燥がさらに進行し、バリア機能が深刻に破綻します。この結果、ダニやホコリといったアレルゲンが容易に皮膚内に侵入し、同時に皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌が繁殖しやすくなることで、炎症やかゆみが激化し、アトピーが悪化してしまうのです。
風邪に負けない土台作り:免疫バランスを整えるインナーケアの新常識

アトピーの症状を安定させ、風邪をひいたときでも免疫の乱高下を最小限に抑えるためには、外側のスキンケアだけでなく、内側から免疫バランスを正常に整えることが最も重要です。そのカギは、腸内環境の改善にあります。
免疫細胞が集中する「腸」とアレルギーの深い関係
私たちの体にある免疫細胞の約7割は、腸管に集中しています。このため、腸内フローラ(細菌叢)の状態が、全身の免疫システムの働き、特にTh1/Th2のバランスに大きな影響を与えることが、近年の研究で明らかになっています。
腸内環境を改善し、善玉菌が優位な状態を保つことは、Th2細胞の過剰な働きを抑制し、アレルギー体質を根本からサポートするための有効な手段の一つとされています。
【注目の研究】日本人の体質と相性の良い「米由来の進化系乳酸菌」
数多ある乳酸菌の中でも、特にTh1/Th2バランスの調整に寄与する可能性が示唆されているのが、日本の伝統的な発酵技術から生まれた特定の米由来乳酸菌(LK-117)です。
専門的な知見に基づく米由来乳酸菌の可能性
この乳酸菌は、日本酒造りの「生酛(きもと)造り」の環境から発見され、乳製品のアレルギーを心配する方でも安心して摂りやすい米由来であることが特徴です。神戸大学・兵庫県工業技術センターとの共同研究において、その機能性に関する以下の点が示唆されています[2]。
💡 LK-117乳酸菌が持つ可能性
- Th1増加の促進: この菌体成分は、免疫の司令塔であるマクロファージに働きかけ、Th1細胞の増加を促進するサイトカイン「IL-12」の産生を促すことが示唆されています。
- アレルギー応答の抑制: IL-12の産生を促すことは、Th2優位な状態を中和し、免疫バランスを正常な状態(Th1とTh2のバランスが取れた状態)へ導くことに繋がり、アレルギー症状の抑制作用が期待されます。
アトピーや花粉症、喘息といったアレルギーマーチの連鎖を断ち切るためにも、日々の食生活にこうした科学的根拠に基づくインナーケアを取り入れ、子どもの頃から免疫バランスの整った体の土台を作ることが、新しい常識となりつつあります。
Q&A:子どものインナーケアに関する親御さんの疑問
子どものアレルギー体質改善に悩む親御さんからよく寄せられる質問にお答えします。
アレルギー体質の子どもに「免疫力を高める」ことは危険ですか?
A. アレルギー体質で重要なのは、単に「免疫力(攻撃力)」を高めることではなく、「免疫バランスを整える」ことです。過剰なTh2応答(アレルギー反応)を抑制し、感染防御に必要なTh1応答とのバランスを適切に保つことが目標です。乳酸菌によるインナーケアは、このバランス調整をサポートする働きが示唆されています。
乳酸菌での体質サポートはどのくらい継続すべきですか?
A. 腸内環境や免疫システムの改善は、短期間で劇的に変化するものではありません。腸内フローラは継続的な栄養摂取に反応するため、最低でも数週間から数カ月は毎日欠かさず摂り続けることが推奨されます。継続的な摂取を通じて、腸管免疫に安定的に働きかけ、体質の土台をゆっくりと変えていくことが大切です。
アトピー性皮膚炎の治療中にインナーケアを併用しても大丈夫ですか?
A. 外用薬や内服薬による治療はアトピーの症状を抑えるために必要ですが、乳酸菌などのインナーケアは、体の内側から体質改善をサポートする目的で併用可能です。ただし、必ず主治医に相談し、治療の妨げにならないか確認してから取り組むようにしましょう。
アレルギーマーチとは何ですか?
A. アレルギーマーチとは、アトピー性皮膚炎を発症した子どもが、成長とともに食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎といった他のアレルギー疾患を次々と発症していく現象です。皮膚のバリア機能が破綻することでアレルゲンが侵入しやすくなり、体質がアレルギー優位な状態に固定化されることが一因と考えられています。初期の段階で免疫バランスを整えることが、この連鎖を防ぐ上で重要となります。
まとめ:根本改善を目指す「内と外」からのアプローチ
風邪をひいたときにアトピーの症状が変動する背景には、免疫バランス(Th1/Th2)の不安定さと、皮膚バリアの弱さという二つの問題が潜んでいます。子どものアレルギー体質を根本からサポートするためには、適切なスキンケア(外側)で皮膚を守りつつ、科学的知見に基づいたインナーケア(内側)で免疫バランスを整えることが不可欠です。
日本人の体に馴染み深い特定の米由来乳酸菌を日々の生活に取り入れることは、過剰なアレルギー反応を抑制し、風邪などの外的ストレスにも負けない、安定した体の土台を作るための第一歩となるでしょう。ぜひ、今日からインナーケアの新常識を始めてみませんか。
【重要なお知らせ】
※本記事は、一般的な健康・美容情報を提供するものであり、特定の成分や商品の効能・効果を保証するものではありません。また、医師の診断・治療を代替するものではありません。 アトピー性皮膚炎やアレルギー症状については、必ず専門医にご相談の上、適切な診断と治療を受けてください。
主な参考文献・情報源
- [1] 椛島健治. Pathogenesis and novel therapeutic strategies in atopic dermatitis. 日本内科学会雑誌. 2020; 109(9): 1741-1746.(京都大学大学院医学研究科・医学部皮膚科学教授の知見)
- [2] 特定の乳酸菌に関する共同研究データ(IL-12産生促進作用、アレルギー応答抑制作用など)。
- [3] 日本皮膚科学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018年度版.