便秘解消のためにヨーグルトや納豆など積極的に食べている人も多いはず。ですが、日本人に10人に1人以上が悩んでいるといわれる「過敏性腸症候群」の人にとって、腸内環境にいいとされる食事が、かえって腸の不調を悪化させる原因に。
ヨーグルトや納豆を食べているのに、便秘が改善れない、むしろ悪化しているような気がする。もしかすると「過敏性腸症候群」かもしれません。「過敏性腸症候群」の人が便秘を解消するためにはどうすればいいのかを紹介しします。
日本人の10人に1人?過敏性腸症候群
日本人は世界的に見ても胃腸の調子が悪い人が多いといわれてます。また、社会生活におけるストレスの増加に伴い、下痢や便秘などの便通異常を訴える人も増えています。中でも多いのが、過敏性腸症候群です。
以前は、若年層や女性に多く見られましたが、最近は中高年層にも多く見られるようになり、日本人の10人に1人以上が悩んでいるといわれています。
【過敏性腸症候群セルフチェック】
☐ 何週間も下痢や便秘が続く
☐ 頻繁に腹痛やお腹が張るような感覚がある
☐ 急な下痢でおなかが痛くなる
☐ 排便すると腹痛が和らぐ
☐ 下痢と便秘を交互にくり返す
☐ 排便後、残便感がある
☐ 便秘がちで、コロコロした便がでる
これらの症状が3つ以上あてはまる人は、過敏性腸症候群の可能性があります。
こういった症状は、「そのうち治るだろう」「いつものことだから」とそのままにしている人も多いのではないでしょうか。また、便秘が気になってきたら腸内環境にいいとされる発酵食品や食物繊維を積極的に摂取するという人もかなりいるでしょう。
しかし、実は腸内環境にいいとされる食事が、過敏性腸症候群の人にとってはかえって腸の不調を悪化させてしまっている可能性があります。
ヨーグルトや納豆で便秘になる?
病院で検査をして目に見える異常がないにもかかわらず、下痢、腹痛、腹部膨満感、ガス、便秘などの症状に悩まされる過敏性腸症候群。これらの不調の原因として「FODMAP(フォドマップ)」が注目されています。
「FODMAP」とは・・・
F・・・Fermentable(発酵性の糖質)
O・・・Oligosaccharides(オリゴ糖)
D・・・Disaccharides(二糖類)
M・・・Monosaccharides(単糖類)
And
P・・・Polyols(ポリオール)
という糖質の頭文字を組み合わせた略語のことで、小腸で消化吸収されず大腸での発酵性を有する糖質の総称です。
該当する食品は
オリゴ糖:納豆、きな粉、豆腐、小麦、玉ねぎ、ごぼう、にんにくなど
二糖類:牛乳、アイスクリーム、ヨーグルトなど
単糖類:果物、はちみつなど
ポリオール:いちじく、プルーン、シュガーレスのお菓子など
です。
「FODMAP」の食品を多く摂るとお腹の中でガスが増え、普段から便通が正常な人はいつも以上に便通が良くなることがありますが、普段から便秘ぎみの人は便秘が悪化したり、ガスが溜まってお腹が苦しくなることがあります。また、普段から下痢ぎみの人は、ガスが刺激となり下痢が悪化することもあります。
この「FODMAP」を避ける『低FODMAP食事法』は、アメリカのハーバード大学、イエール大学、コロンビア大学、ペンシルバニア大学などでも論文が発表されています。最近の報告では、『低FODMAP食事法』の実践で75~80%の人に過敏性腸症候群の改善が見られ、日本消化器病学会も安全かつ有効性の高い治療法として推奨しています。
実は、便秘を解消するイメージのある納豆やヨーグルトは、「FODMAP」を多く含む『高FODMAP食品』に含まれます。
FODMAPを含む食品
低FODMAP食品 | 高FODMAP食品 | |
穀物など | 米、玄米、米粉類、もち米、そば(10割)、米菓子(せんべい)、タピオカなど | 小麦、大麦、ライ麦、パン、パスタ、ラーメン、うどん、そうめん、とうもろこし、ケーキなど |
野菜類 | なす、人参、レタス、キャベツ、きゅうり、じゃがいも、ほうれん草、白菜など | アスパラガス、にんにく、キムチ、玉ねぎ、納豆、ゴボウなど |
果物 | バナナ、いちご、ぶどう、メロン、キウイフルーツ、オレンジ、レモンなど | りんご、スイカ、桃、なし、グレープフルーツ、アボカド、柿など |
乳製品 | バター、マーガリン(牛乳を含まない物)、チェダーチーズ、モッツァレラチーズ、カマンベールチーズ、パルメザンチーズなど | 牛乳、生クリーム、ヨーグルト、アイスクリーム、クリームチーズ、コンデンスミルクなど |
肉類・ナッツ | ベーコン、ハム、豚肉、牛肉(赤身)、鶏肉、卵、魚介類、ピーナッツなど | ソーセージ、カシューナッツ、ピスタチオ、わさび、など |
調味料・その他 | マヨネーズ、ソース、オリーブオイル、メープルシロップ、味噌など | はちみつ、オリゴ糖、ブイヨン、トマトケチャップなど |
表の赤字の部分を見てもらうと、意外にも腸にいいイメージのある食品が高FODMAP食品に含まれていることが分かります。
FODMAPの体への影響
口から摂取した食べ物は、食道から胃を通って小腸へ送られます。消化の良い糖質は小腸から吸収されますが、FODMAPは吸収が悪いため、FODMAPを多く含む食品を食べ過ぎると小腸内で濃度が増えます。すると、人の体は濃度を薄めるために大量の水分を小腸に送ります。水分でいっぱいになった小腸は、刺激を受け蠕動運動が過剰になり、その結果、腹痛や下痢を引き越します。さらに、小腸で吸収されなかったFODMAPは大腸に到達すると、大腸内の腸内細菌のエサとなり、大腸内で過剰な発酵を起こします。それにより、多量のガスが創り出され、腹部満腹感や便秘を引き起こします。
FODMAPは、腸内細菌のエサとなるため、腸内細菌を活性化するためには大事ですが、
摂取しすぎると、お腹の不調を悪化させてしまいます。このFODMAPの摂取を制限する食事法が『低FODMAP食事法』です。
【低FODMAP食事法の方法】
- お腹の不調は体質だからとあきらめている
- 生活リズムを改善しても改善がみられない
- ヨーグルトや納豆を食べても便秘になる
こういった方は、低FODMAP食事法を試すことで症状が改善するかもしれません。
低FODMAP食事法の方法としては、まずは3週間、高FODMAP食品の摂取をごく最小限にします。その後、少しずつ摂取を開始していき、お腹の不調を起こす食品を特定します。
また、低FODMAP食品は、多種類のものを組み合わせて食べると腸内環境が整えられ、腸の機能が正常に働くことで免疫力アップにも繋がります。お腹の不調がなくても、日々の食事に様々な低FODMAP食品を積極的に摂り入れることをオススメします。
※完全に高FODMAP食をカットできなくても意識して摂取量を減らすだけで症状が軽減することがわかっています。
低FODMAP食の注意点
- 栄養の偏りに気を付ける
- 同じ食材でも調理法や種類によって変わってしまう
- 食べる量によっても変化してしまう
高FODMAP食は栄養価が高く、私達の体に欠かせない栄養素を含むものも多いため、完全に排除してしまうと栄養が偏る可能性があります。また、腸を活性化させる食材も多いので、便秘にも要注意。食物繊維が豊富で低FODMAP食でもあるキウイフルーツやキャベツなどを積極的に摂るのも良いですね。
低FODMAP食だと思っていた食材が、調理法によって高FODMAP食になってしまった!ということも。
例えば、じゃがいもは低FODMAP食品ですが、フライドポテトは高FODMAP食品になります。白菜も低FODMAP食品ですが、キムチになると高FODMAP食品に。
豆乳は大豆から作られた「大豆由来」のものは高FODMAP食品、大豆の抽出物から作られた「大豆抽出由来」のものは低FODMAP食品となります。
調理方法や食品の種類によって異なる場合があるので、分類も同時に確認したほうが良いですね。
例えば、健康に良いとされているナッツ類。
くるみやピーナッツは低FODMAP食品ですが、ピスタチオやカシューナッツは高FODMAP食品に該当します。アーモンドは10粒以下なら低FODMAP食品となりますが、それ以上食べると高FODMAP食品となってしまいます。ですので、摂取量にも気を付けましょう。
腸に病気がないのに腹痛や下痢などに悩まされる過敏性腸症候群の方は、特に高FODMAP食品の摂り過ぎがよくない影響を与えると言われています。
グルテンフリーとよく似ている低FODMAP食。
しかし、グルテンフリーに比べ見分けるのがとても難しいです。
全ての食事から高FODMAP食品を排除したり、低FODMAP食品のみを摂取したりして制限するものではなく、あくまで自分の中で避けるべき食品を探して、体の不調を起こさせる原因を探るのが目的です。自己流で行うと栄養不足になってしまうこともあるので、きっちり行いたい場合は医師などと相談の上行うことが望ましいです。何事も、いきなり厳格に行おうとすると体調を崩してしまい。かねないので、まずはランチやおやつなどを意識して選ぶことから始めるとよいでしょう。
過敏性腸症候群には生活リズムも大事
過敏性腸症候群の改善や予防の基本は、「規則正しい生活」です。決まった時間に起きて、決まった時間に寝る、朝昼晩の食事を規則正しく摂るなどの、規則正しい生活リズムを送ることで、自律神経が整い腸の働きも整います。
この他には、なるべくストレスを溜め込まないようにする、ウォーキングなどの運動習慣をつけるなど、自律神経を乱さないための心がけも大切です。
納豆の有効性も考えよう
納豆には健康に良い要素も含まれています。納豆は大豆から作られる発酵食品であり、ビタミンK2や大豆イソフラボンなどの栄養素が豊富に含まれています。特に、ビタミンK2は骨や血管の健康を維持するために重要な役割を果たします。また、納豆中の乳酸菌やナットウキナーゼという酵素は腸内環境を整え、消化を助ける効果があります。さらに、納豆に含まれる食物繊維は便通を改善し、便秘の緩和に役立つことが知られています。
したがって、納豆を適量摂取することは、便秘や腸の健康にプラスの効果をもたらす可能性があります。ただし、個々の体質や症状によって摂取量や摂取方法は異なるため、適度な量で摂取することが重要です。また、食事だけでなく、ストレスの管理や適切な運動などの生活習慣も便秘改善に役立ちます。
つまり、納豆は便秘や腸の健康に対するプラスの要素を持つ一方で、過剰な摂取や個々の体質によっては悪影響を及ぼす可能性もあるということです。
ヨーグルトや納豆が便秘を引き起こす可能性があるとされる一方で、その摂取量や個人の体質によっては便通改善の効果も期待できることが分かります。納豆の健康効果を享受しつつ、過敏性腸症候群などの症状に悩む人々がバランスの取れた食生活を送るためには、バランスの取れた食生活と生活習慣の改善が、便秘や腸のトラブルを予防し、健康な生活をサポートする重要な要素と言えるでしょう。
乳酸菌は摂取しても大丈夫?
便秘解消のためにヨーグルトを積極的に食べている人は、乳酸菌の働きを期待している方も多いのではないでしょうか。
乳酸菌そのものは、FODMAPとは無関係であるため、過敏性腸症候群の人が積極的に摂ることは良いのですが、ヨーグルトなどの乳製品は高FODMAP食品のため過敏性腸症候群の方は避けた方がいいです。
乳酸菌そのものを効率よく摂取するためには、サプリメントがオススメです。乳酸菌サプリメントの中には、高FODMAPに分類される「イヌリン」や「オリゴ糖」が含まれているものもあるので、原材料をきちんと確認して選ぶようにしましょう。
まとめ
過敏性腸症候群を改善するために、まずは生活リズムを見直すことが大切です。しかし、過敏性腸症候群には、ストレスや食べ物も関係しているため、なかなか改善しない場合は、低FODMAP食事法などを意識してみるといいでしょう。生活に支障をきたすほど症状がひどい場合は、ムリせずに胃腸科や消化器科を受診するようにしましょう。
よくある質問
過敏性腸症候群とはどんな病気ですか?
過敏性腸症候群(IBS)は、慢性的な腹痛や便通異常(下痢や便秘)など、消化管の様々な症状が現れる機能性消化管障害です。ストレスや食事などが原因と考えられていますが、完治する決め手はなく、対症療法が中心となります。
なぜ日本人に過敏性腸症候群が多いのですか?
日本人の食生活の欧米化が一因とされています。肉類や乳製品の摂取量が増え、食物繊維が不足しがちになったことで、腸内環境が変化し、IBSのリスクが高まったと考えられています。
ヨーグルトや納豆が便秘を引き起こすのはなぜですか?
ヨーグルトや納豆には乳糖や難消化性オリゴ糖が含まれています。一部の人では、これらの成分を十分に消化できず、過剰な発酵が起こり、ガスが溜まって便秘になる可能性があります。
便秘がひどくなったら病院へ行った方がいいですか?
はい、便秘が長期化し、症状が改善しない場合は、医師に相談することをおすすめします。便秘は潰瘍性大腸炎や大腸がんの初期症状の場合もあり、原因を特定して適切な治療を受ける必要があります。
過敏性腸症候群の症状を和らげる食事とは?
食物繊維の多い野菜や果物、全粒穀物を控えめに摂ることが重要です。一方で、食物繊維の少ない白米や肉、卵などのタンパク源を上手にとることも大切です。刺激物やアルコールは控えめにしましょう。
運動は過敏性腸症候群に効果がありますか?
軽い有酸素運動は過敏性腸症候群の症状を和らげる可能性があります。ストレス解消にもなり、便通改善や腹痛の軽減が期待できます。しかし、無理のない範囲で行うことが大切です。
納豆が便秘の原因になるのはなぜですか?
納豆には大豆イソフラボンや難消化性デキストリンなどの成分が多く含まれています。これらの成分は腸内環境を変え、一部の人に過剰な発酵を引き起こして便秘の原因となる可能性があります。
納豆を食べると必ず便秘になるのでしょうか?
納豆が原因で便秘になるかどうかは個人差が大きいです。通常の量を食べる分には問題ありませんが、過剰に摂取すると便秘になりやすくなる傾向にあります。食べ過ぎに注意しましょう。
納豆が便秘の原因でも健康に良いとされるのはなぜですか?
納豆には食物繊維やビタミン、ミネラルなどの栄養素が豊富に含まれています。適量を食べれば便秘予防や整腸作用が期待できますが、個人の体質によっては便秘になるリスクもあるため、上手に調整する必要があります。
納豆は便秘がちな人は控えた方がいいですか?
必ずしも控える必要はありませんが、個人の体質や反応を見ながら、納豆の摂取量を調整することが賢明です。少量からはじめて徐々に量を増やすなど、自分に合った食べ方を見つけることが大切です。