重症・最重症のスギ花粉症に対する最新治療として、抗IgE抗体薬「ゾレア」を皮下注射する治療ができるようになりました。
花粉症新治療薬「ゾレア」の治療対象となる重症患者の基準や、高額といわれている費用について調べてみました。
花粉症の新治療薬「ゾレア」とは
スギ花粉症の新たな治療法として、世界初の抗体医薬となる「ゾレア」が登場。
これまでは喘息や蕁麻疹などの重症患者に使用されていましたが、2019年12月から花粉症の治療にも適用され、重症・最重症のスギ花粉症に対して「ゾレア」による治療を行うことができるようになりました。
2020年以降、花粉症対策として「ゾレア」が注目されています。
「ゾレア」の花粉症への効果
「ゾレア」は、花粉用の治療に用いられる「抗IgE抗体」という薬になり、アレルギー反応を抑制する作用があります。
くしゃみや鼻水などの花粉症の症状は、体内のIgE抗体と花粉が反応することで起こります。
花粉(アレルゲン)が体に侵入し異物と判断されると、B細胞の表面のIgE抗体が受容体となり花粉を吸着し、B細胞が活性化され、B細胞からIgE抗体が作られます。
作られたIgE抗体は、皮膚や気管支、鼻粘膜などに多く存在する肥満細胞と結合し、花粉の再侵入に備えます。
そして、再び花粉が侵入し、肥満細胞と結合したIgE抗体が花粉を吸着し攻撃すると、ヒスタミンが放出され花粉症の症状が引き起こされます。
「ゾレア」と一般的な花粉症薬との違い
現在、花粉症の市販薬として最も一般的なのは、花粉症の症状を引き起こすヒスタミンの作用を阻害する抗ヒスタミン薬です。
抗ヒスタミン薬は、花粉症の症状でよく見られる、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみなど、既に出てしまっている症状を緩和する目的で多く使用されます。
「ゾレア」は、IgE抗体と肥満細胞の結合を阻害し、ヒスタミンの放出を抑制します。
このように、抗ヒスタミン薬とは異なるメカニズムを持ちます。
「ゾレア」の治療基準や費用について
「ゾレア」による治療を受けるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
花粉症治療薬としては新規の作用機序があるため、厚生労働省は最も適した患者に限って使用されるように「最適使用推進ガイドライン」を定めています。
【患者選択について】
投与の要否の判断にあたっては、以下に該当する患者であることを確認する。・ 鼻アレルギー診療ガイドラインを参考にスギ花粉による季節性アレルギー性鼻炎の確 定診断がなされている
・本剤初回投与前のスギ花粉抗原に対する血清特異的 IgE 抗体がクラス 3 以上(FEIA 法 で 3.5 UA/mL以上又は CLEIA 法で 13.5 ルミカウント以上)である
・ 過去にスギ花粉抗原の除去と回避を行った上で、医療機関において鼻アレルギー診療 ガイドラインに基づき、鼻噴霧用ステロイド薬及びケミカルメディエーター受容体拮抗 薬による治療を受けたものの、コントロール不十分な鼻症状(注 1)が 1 週間以上持続 したことが診療録、問診等で確認できる
・ 12 歳以上で、体重及び初回投与前血清中総 IgE 濃度が投与量換算表で定義される基準 を満たす
・投与開始時点において、季節性アレルギー性鼻炎とそれ以外の疾患が鑑別され、本剤の 投与が適切な季節性アレルギー性鼻炎であると診断されている(注 1)くしゃみ、鼻汁及び鼻閉のすべての症状が発現し、かつ、そのうち 1 つ以上の症状について、鼻アレルギー診療ガイドライン
に基づく程度が+++以上であること。
これによると、「ゾレア」の投与対象となるには、大きく3つの条件があります。
- 12歳以上(体重20~150㎏)の重症花粉症患者
- 既存の内服薬や点鼻薬で十分な効果が得られない
- 血液検査でスギ花粉特異的IgE抗体がクラス3以上で総IgE値が50~1300IU/mlの範囲内
花粉症の中でもスギ花粉症の患者に限られ、ある程度の治療を行ったにもかかかわらず効果が不十分と判断された重症または最重症の患者に限られるということです。
重症花粉症患者の基準
花粉症には重症度は、くしゃみ回数、こう鼻回数、鼻閉程度によって軽症から最重症までの4段階で分類されています。
こう鼻とは鼻をかむことで、1日に11回以上鼻をかむ人は重症以上になります。
この花粉症症状の中で、ひとつでも重症以上の症状があれば、重症花粉症患者ということになります。
花粉症でお悩みの方の多くは、この基準にあてはまるかと思います。
もうひとつの条件、今までの治療で十分な効果が得られないというのはどう判断されるのか。
それは、重症以上の花粉症の方でも改めて、1週間は抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬などで治療し、それでも効果が不十分で重症もしくは最重症の状態が続いた人となります。
その後、血液検査で「スギ花粉特異的IgE抗体がクラス3以上で総IgE値が50~1300IU/mlの範囲内」という基準を満たすと、「ゾレア」による治療の対象となります。
既存の内服薬や点鼻薬で十分な効果が得られない場合も使用可能に
内服薬とステロイド点鼻薬で治療をしても、上記に挙げた重症度分類の重症以上の状態が1週間以上続いていると、効果が不十分であると判断されます。
点鼻薬と内服薬で治療している医療機関と、その効果を確認する医療機関が同じであることも条件となります。
それが確認できてはじめて、ゾレアの使用が許可されるというわけです。
つまり、A耳鼻科で治療をしていたけれど効果がないので、B耳鼻科を受診した。
B耳鼻科に「今まで点鼻薬と内服薬で治療をしてきたけれど、イマイチ効果があらわれないので、ゾレアを注射してもらえますか?」とお願いしてもすぐに打ってもらえません。
B耳鼻科でこれから1週間、内服薬と点鼻薬で治療をして効果が出なければ、そこではじめてゾレアを打ってもらえる…ということになります。
効果がないと、別の病院にかかる方がいいのかと考えてしまいますが、注意しないといけないですね。
「ゾレア」の治療と費用
「ゾレア」の治療は、原則として、原因となる花粉の飛散時期に応じて行います。
1回75~600mgを2週間または4週間ごとに医療機関を受診して、皮下に注射します。ゾレアの投与量と投与の間隔は、体重と血液中のIgE抗体の量によって異なります。
「ゾレア」の治療でかかる費用は、薬剤費のみで1か月あたり、3割負担で7,088円から111,576円の間で、投与量によって異なります。
「ゾレア」の投与量によっては高額な費用がかかる可能性もあるので、高額療養費制度などを利用して自己負担額を減らすことをオススメします。
高額療養費制度は年齢や所得にとって金額は異なりますが、平均的な所得の会社員(年収の目安:約370万~770万円)だと、1ヵ月の医療費(自己負担額)の上限は約8万円程度となります。
「ゾレア」の注意点と副作用
「ゾレア」は、今、出ている症状を軽減する薬剤ではなく、予めIgE抗体の働きを抑制しておくことでアレルギー反応を抑制します。
自己判断でほかの処方薬を減量または中止せず、必ず主治医の判断に従うようにしましょう。
また、IgE抗体は寄生虫感染に対する防御機能をあるため、「ゾレア」の使用中に寄生虫感染のリスクが高い地域へ行く場合は、注意が必要です。
「ゾレア」の投与日とIgEの数値は、次の花粉シーズンの用法・用量を決める際に必要になるため、しっかりと記録しておきます。
「ゾレア」の主な副作用には、注射部位の反応で、注射した場所が赤くなったり、腫れたりすることがあるようです。
また、まれに、気管支のけいれんや意識低下、呼吸困難、下や唇、喉の腫れなどが起こる可能性があります。このような症状が起きた場合、「アナフィラキシー」の可能性があるので。すぐに主治医に相談しましょう。
まとめ
花粉症新治療薬「ゾレア」がどのようなものかを記載しましたが、実際に「ゾレア」による治療を受ける際は、必ず医師の指示に従うようにして下さい。
「ゾレア」による治療を受けるには条件がありますが、花粉症の治療の選択肢が一つ増えたことは、ツラい花粉症の症状に困っている方にとってはありがたいことですね。
このように、花粉症に対するる治療法は多くの選択肢がありますが、薬だけに頼らず普段の生活の見直しも大切です。
花粉症は、アレルギー反応なので、体の免疫が正常に働くことでアレルギー反応を抑えることができます。反対に、免疫バランスが乱れているとアレルギー反応が強く出る可能性もあります。
体の免疫細胞の約60%は腸に集中しているため、腸の環境を整えることが正常な免疫機能の活動にも繋がります。腸の環境を整えるために、睡眠習慣や食習慣などの日常生活も見直してみましょう。普段の食事で乳酸菌や食物繊維などを取り入れるのもオススメです。