「せっかく体に良い乳酸菌を摂っているのに、すぐに体の外へ出てしまうなら意味がないのでは?」
腸活を実践している方の多くが一度は抱く疑問です。CMや雑誌で「生きて届く」という言葉はよく聞きますが、その先にある「定着(腸内に住み着くこと)」については、意外と知られていない事実があります。
結論から言えば、多くの乳酸菌は腸内に長くは留まりません。しかし、実は「定着すること」と「健康へのメリットを得ること」はイコールではないのです。この記事では、乳酸菌の定着に関する最新の科学的知見と、私たちがどう向き合うべきかの判断基準を整理して解説します。
結論:乳酸菌は「住み着く」のではなく「通り過ぎる」存在
多くの乳酸菌は永続的に定着しない
現代の腸内細菌研究において、外部から摂取した乳酸菌(プロバイオティクス)のほとんどは、腸内に永続的に定着することはないというのが一般的な見解です。
腸内はすでに完成された生態系
私たちの腸内には、幼少期に形成された独自の「腸内細菌叢(マイクロバイオータ)」という完成された生態系が存在します。外部から入ってきた菌は、この強固なコミュニティの中に割り込んで永住権を得ることが非常に難しいため、一定期間(数日から長くとも2週間程度)で便とともに排出されます。
ただし、近年の研究では、一部の特定の菌株や、摂取する側の個人の腸内環境の状態によっては、通常よりも長く留まったり、一時的な定着に近い状態を示したりする例も報告されています。一律に「100%定着しない」と言い切れないのが、生命科学の奥深さでもあります。
ビフィズス菌との混同に注意
なお、乳酸菌と混同されやすい存在に「ビフィズス菌」があります。ビフィズス菌は主に大腸に多く存在し、乳児期から定着しやすい常在菌として知られています。
このため、「乳酸菌が定着する」という情報の一部は、実際にはビフィズス菌の性質と混ざって語られているケースも少なくありません。両者は役割も生息部位も異なるため、同列に扱わないことが重要です。
科学的背景:通過菌と定着菌
腸内細菌を理解する上で欠かせないのが、「通過菌」と「定着菌」という2つの概念です。
- 定着菌(Resident bacteria): 幼少期(主に3歳頃まで)に環境や親から受け継ぎ、腸内の粘膜にしっかりと根を張って住み着いている菌。あなたの腸の「先住民」です。
- 通過菌(Transient bacteria): 食品やサプリメントから摂取される菌。腸内を移動しながら活動し、数日で排出される「旅人」のような存在です。
なぜ通過菌は定着できないのでしょうか。それは腸内の「座席数」が決まっているからです。先住民である定着菌がすでに隙間なく並んでいるため、外部からの菌が新しく入り込むスペースが物理的・化学的に制限されていると考えられています。
研究例:エビデンスから見る定着の難しさ
摂取中のみ検出されるという事実
多くの臨床試験が、プロバイオティクスの定着性について検証を行っています。
■ 一般的な通過のプロセス
多くのレビュー論文(複数の研究をまとめた報告)では、プロバイオティクスを毎日摂取し続けている間は便の中にその菌が検出されますが、摂取を止めてから1週間〜2週間後には検出されなくなることが示されています。これは、菌が腸壁に生着(定着)していないことを裏付ける強力な証拠とされています。
■ 個別性の発見(定着するケースの報告)
一方で、イスラエルのワイズマン研究所などの研究(Cell, 2018)では、同じ乳酸菌を摂っても、「菌を受け入れやすい人(Persisters)」と「すぐに排出してしまう人(Resisters)」がいることが判明しました。
もともとの腸内細菌の密度が低かったり、食事内容によって特定の菌に有利な環境が整っていたりする場合、一部の菌株が一時的に定着に近い挙動を示す可能性が示唆されています。
定着しにくいことを前提にすると、
▶ 目的別に乳酸菌を選ぶ考え方が重要になります。
実体験と体感のズレ:定着しなくても「効く」理由
「定着しないなら飲んでも無駄では?」と感じるかもしれませんが、それは誤解です。乳酸菌の価値は、住み着くことではなく「通り過ぎる間に何をするか」にあります。
通過中に起こる代謝産物の作用
代謝産物のメリット:
乳酸菌は腸内を通過する際、乳酸や酢酸、あるいは「短鎖脂肪酸」の生成を助けます。これらが腸内を適度な酸性に保ち、もともと住んでいる善玉菌を元気にしたり、悪玉菌の増殖を抑えたりします。
免疫系への刺激:
菌が腸の粘膜にある免疫細胞を「ノック」して刺激を与えることで、免疫のスイッチを入れる働きもあります。これは菌が生きているか、定着しているかにかかわらず、通り過ぎる際の一時的な接触でも起こる現象です。
便検査で「菌がいなくなった」としても、その菌が腸内を通過したことによる「機能的な影響」は残るため、私たちは体感としてメリットを得ることができるのです。
では、乳酸菌の効果は実際いつ頃から感じられるのでしょうか?
▶ 乳酸菌の効果はいつから感じる?研究ベースの目安
「定着をうたう乳酸菌」はどう考えればいい?
「定着」という言葉の実際の意味
一部の製品や情報では「腸に定着する乳酸菌」という表現が使われることがありますが、これは「永続的に住み着く」という意味で使われているわけではない場合がほとんどです。
研究や製品説明における「定着」という言葉は、
- 一定期間、比較的長く腸内で検出される
- 摂取中に腸内環境へ影響を与え続ける
- もともとの腸内細菌と相互作用しやすい
といった「機能的な意味合い」を簡略化して表現しているケースが多く見られます。
したがって、「定着するか・しないか」だけで乳酸菌を評価するのではなく、どのような働きが、どの程度の期間期待できるのかという視点で捉えることが重要です。
自分に合った乳酸菌を見極める判断ポイント
定着しにくいという前提を踏まえ、私たちはどのように乳酸菌を選び、使えばよいのでしょうか。
1. 「継続」が唯一の解決策
定着しないからこそ、毎日補給し続けることに意味があります。常に「新鮮な応援団」を送り込み続けるイメージです。
2. 「相性」を2週間で判断する
前述の通り、受け入れやすさには個人差があります。特定の菌を2週間ほど続けてみて、便通や体調に良い変化がなければ、その菌はあなたの現在の細菌叢と相性が良くない(Resistersの状態)可能性があります。
3. 菌を育てる「エサ」もセットで
食物繊維やオリゴ糖を一緒に摂ることで、通過する乳酸菌がより活発に活動しやすくなります。これを「シンバイオティクス」と呼び、定着性の低さを補うための有効な戦略となります。
乳酸菌は定着しなくても機能することが、研究から明らかになっています。
この考え方は、乳酸菌の選び方や摂取方法、安全性とも深く関係します。
全体像を理解したい方は
▶ 乳酸菌・プロバイオティクス完全ガイド
をあわせてご覧ください。
複数の菌を組み合わせた場合の考え方については、
▶ 複数の乳酸菌を同時に摂るとどうなる?
FAQ:乳酸菌の定着に関するよくある質問
- 乳酸菌はどれくらいの期間 腸内に留まるの?
- すでに腸内に住んでいる数兆個もの常在菌が「縄張り」を形成しているため、外部から入ってきた菌が新たに割り込んで住み着くためのスペースや栄養が不足しているからです。多くの研究では、プロバイオティクスとして摂取した乳酸菌は数日〜1〜2週間程度で便中から検出されなくなることが示されており、これが腸内に永続的に定着していないことの一つの指標とされています。
- 定着する菌はあるの?
- 非常に稀ですが、特定の菌株(L. rhamnosus GGなど一部の報告)や、個人の腸内環境の状態によっては、通常より長く(数週間程度)留まるケースがあります。しかし、一生住み着くことはほとんどありません。
- 乳酸菌の効果は定着しなくてもある?
- はい。通過する過程で乳酸などの有用物質を作ったり、腸の免疫細胞を刺激したりすることで、腸内環境を整えるサポートを行います。定着しなくても、その「働き」は十分に期待できます。
- プロバイオティクスは本当に一時的だけど、意味あるの?
- はい。乳酸菌は腸を通過する間に乳酸・短鎖脂肪酸などを産生し、腸内環境や免疫システムに良い影響を与えることが示されています。 この効果は「定着」とは独立して機能します。
- 定着しないなら、プロバイオティクスの値段の意味はある?
- 定着性だけが価値ではありません。菌株の安全性評価・機能性・製品としての検証・耐胃酸性などの設計が価格の違いに反映されていることが多いです。何を目的に摂取するかで選択の基準が変わります。
- 子どもの場合、大人と違って 定着しやすいの?
- 一部のRCTレビューでは、乳児へのプロバイオティクス投与後に6〜12か月程度、腸内で検出された例が報告されていますが、長期的持続は限定的とされています。
まとめ:定着よりも「相性」と「継続」を大切に
「乳酸菌が定着しない」という事実は、一見残念に聞こえるかもしれません。しかし、これは私たちの腸内環境が、外部からの安易な侵入を許さないほど強固に守られているという証でもあります。
食品としての乳酸菌に「永住」を期待するのではなく、日々のコンディションを整えるための「良質なゲスト(通過菌)」として迎え入れましょう。大切なのは、特定の菌株の定着に固執することではなく、自分の体に合った菌を見つけ、適切なエサとともに継続して、自分だけの腸内フローラを健やかに育んでいくことです。









