古くから日本の食生活にも取り入れられている発酵食品。
発酵食品は、微生物が糖質やたんぱく質を分解する働きを利用し加工したもので、その種類はさまざまです。
朝食の味噌汁、納豆、漬物、醤油。昼食のサンドイッチにヨーグルト。夕食にはビールや日本酒を片手にチーズや生ハム、キムチなど、私たちの食卓では意識せずに微生物の恵みの恩恵を受けているのです。
元々健康志向の方に人気がありましたが、コロナ禍で在宅時間が増えたことをきっかけに、発酵食品は免疫力アップや便秘、美容によい食品ということで意識され、改めて注目されています。
一言で発酵食品といっても、その種類は多岐にわたります。
発酵食品には、
・米の発酵食品 → 日本酒・本みりん・米酢・米麹甘酒・酒粕甘酒など
・乳製品の発酵食品 → ヨーグルト・チーズ・発酵バター・サワークリームなど
・大豆の発酵食品 → 醤油・味噌・納豆・豆鼓・テンペなど
・野菜の発酵食品 → ぬか漬け・からし漬け・メンマ・キムチ・ピクルスなど
・肉や魚の発酵食品 → 塩辛・かつお節・アンチョビ・生ハムなど
があり、それぞれ微生物の種類が違います。
その中でも発酵食品を作るのに欠かせない菌が、誰もがご存知「乳酸菌」。
この乳酸菌は、ヒトにとって最も身近で有用な働きをする菌なのです。
乳酸菌とは、生育に必要なエネルギーを得るためにぶどう糖や乳糖などの糖類(炭水化物)を分解して乳酸を作り出す細菌の総称です。
数多くの種類があり、菌によって棲んでいる場所が違います。
人の体内に棲んでいるのは、各種ビフィズス菌やアシドフィルス菌で、これらは「善玉菌」と呼ばれています。
この乳酸菌が、発酵食品であるヨーグルト・納豆・キムチなどの中にとても多く含まれています。
これらの誰もが知る発酵食品は、私たちの腸内環境に良い影響を及ぼしてくれるのです。
やっぱり腸内環境が大事
乳酸菌が住む世界、腸。
昔から「健康の源」と、近年では「第2の脳」とも言われるほど大事な場所です。
私たちの腸の中には500~1000種類、100兆個以上の細菌が生息しており、そのバランスが美容や健康に大きく関わっています。
腸内環境が整っていてはじめて、身体に良いとされる食品を食べた時に効力が発揮されるので、せっかく発酵食品を食べても、腸内環境が整っていないと身体にとって良い菌が取り込まれず、思った効果が得られないのです。
腸内にすむ細菌のバランスを整えることが、健康な毎日の秘訣だということですね。
このように、腸は私たちの健康を支える重要な役割を果たしているのですが、その腸を常に正常な状態に整えておくために、カギとなるのが善玉菌である「乳酸菌」なのです。
腸内環境の主役「善玉菌」
私達の腸内には「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つが存在し、それぞれ作用や身体に与える影響が異なります。
一般的に、腸内フローラの理想的なバランスは、善玉菌:日和見菌:悪玉菌=2:7:1だと言われており、この腸内細菌は年齢によって割合が変わり、高齢になるにつれて悪玉菌の割合が増えるのが一般的です。
※腸内フローラとは…小腸から大腸にかけて生息しており、これらの様々な細菌がバランスを取りながら腸内環境を整えています。顕微鏡で腸の中を覗いたときに、それがお花畑のように見えることからそう呼ばれています。
<善玉菌の代表的な菌>
乳酸菌・ビフィズス菌・フェーカリス菌など → ビタミンの合成、消化吸収の補助、感染、防御、免疫刺激
<悪玉菌の代表的な菌>
黄色ブドウ球菌・ウェルシュ菌・大腸菌(有毒株)など → 腸内腐敗、細菌毒性や発ガン物質の産生、ガスの発生
<日和見菌の代表的な菌>
バクテロイデス・大腸菌(無毒株)・連鎖球菌など → 免疫力が低下すると日和見菌感染症を発症
※日和見菌感染症とは…免疫力が低下している際に、通常ではほとんど感染しない病原体(弱毒微生物・非病原微生物・平素無害菌など)によって引き起こされる感染症。帯状疱疹やヘルペス、カンジダ症、緑膿菌感染症などがある。
腸内フローラは1人約2kgの重さで、細菌は菌種ごとにまとまって縄張り争いをしながら生息しており、菌種の種類は人によって違います。
腸内では、この善玉菌と悪玉菌が常に戦って生存競争を繰り広げており、年数をかけてその人に最も適した腸内細菌のタイプだけが腸内に生き残っていくので、人によって腸内フローラは異なり、全く同じ腸内フローラの人というのはいないのが普通です。
腸内環境を整えるために、食事内容の改善で善玉菌を増やそうと一時的に摂取しても、すぐには定着しません。
しかし、腸内細菌は私たちが食べたものをエサにして生きるので、身体にとってよい働きをする善玉菌が好むものを摂取し続ければ、徐々に腸内環境を改善することができます。
腸内環境を整えるために善玉菌である乳酸菌を増やして優勢にすることで、発酵食品の取り入れたい効果を吸収できるだけでなく、免疫力がアップしたり美容や健康に良い身体づくりもできるというわけなのです。
ヨーグルトもいいけれど
発酵食品の中でもヨーグルトは特にメジャーなので、毎朝欠かさず食べている方も多いのではないでしょうか。
ヨーグルトは、現在では色んな効能をもった商品が数多く販売されています。
お腹の調子を整えてくれるだとか、花粉症などのアレルギーを緩和する手助けをするといったことが言われているヨーグルト。
健康イメージが高いですが、実はそのイメージに科学的根拠はなく、確かに食べることでメリットもありますが、よいことばかりでもないのです。
ヨーグルトには乳酸菌が含まれるので、それらが腸内で善玉菌を増やす作用があることはよく知られていることです。
しかし、遺伝や環境、食生活によって形成される日本人の体質には合わないことが、近年の研究でわかってきています。
島国の安定した社会の中で生活してきた日本人。食生活は穀物が中心となります。
一方、欧米人の食生活は肉類と乳製品が中心です。
それぞれ人種によって食生活が違うように、胃腸のカタチも違っています。
ヨーグルトは乳からできていますが、その乳の中の乳糖がうまく分解できずに、大腸内の浸透圧を上げてしまい、腸壁から水分が染み出して便が軟化するといったことも、日本人の胃腸の性質によって起こるものです。症状が顕著に現れるわけではないのが特徴で、日本人の約75%がこの乳糖不耐症であるそうです。
また、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌は、胃や腸のなかでは生存しにくいという性質を持っているため、食べても腸に対する乳酸菌の作用はあまり期待できないという見解もあるのです。
乳酸菌は生きて腸に届くのがよいとされており、特に動物性乳酸菌は胃酸などに弱いために死滅してしまいますが、死んでしまった乳酸菌も善玉菌のエサとなるので、全く効果がないというわけではありません。
しかし、乳酸菌本来の機能が十分に期待できないだけでなく、ヨーグルトの脂肪分は非常に多いので、嗜好品として食べるに留めておいたほうがよいかもしれません。
オススメの発酵食品
オススメその1 「日本酒」
私たち日本人の主食はお米。
そんなお米からできる発酵食品といえば、やはり日本酒でしょう。
日本酒って発酵食品なの?!と思ってしまいますが、お米を麹菌や酵母菌の力を借りてアルコール発酵させて造るので立派な発酵食品(飲料)だと言えます。
日本酒の原料となるお米には糖分が含まれていないので発酵が出来ず、それを助けるのが麹。
麹の酵素によってお米のでんぷんをぶどう糖に変え、酵母菌の力でアルコール発酵を起こすことで美味しい日本酒が出来上がるというわけです。
この日本酒を造る過程で重要なのが酒母(しゅぼ)造りという工程です。
この酒母というのは、醪(もろみ)の発酵を促すための酵母を大量に培養したもので、酒造りの骨組みが左右される非常に重要なものになるのですが、培養するにあたって必要となるのが「乳酸」なのです。
日本酒はこうやって作られる!
普段、何気なく飲んでいる日本酒。
菊正宗の日本酒がどのようにして造られているのか覗いてみましょう。
※日本酒の作り方「酒造りの技から美味しい飲み方まで」
引用元:菊正宗酒造株式会社HP 日本酒図書館より
乳酸菌が生成する乳酸は、日本酒の「生酛(きもと)造り」においてなくてはならない存在で、微生物(雑菌)による汚染を防いでくれ、酵母の増殖にも必要となります。また、日本酒にコクも与えてくれます。
日本酒は乳酸菌の機能だけでなく、自分の体内で生成できない「必須アミノ酸」が全て含まれています。アミノ酸が2つ以上結合した「ペプチド」も入っており、血圧を下げる効果が注目されていたり、日本酒のアルコールに含まれる「アデノシン」という成分が、血行を促進したりとイイことづくめなのです。
日本酒を飲むと、体がポカポカするのはこれのおかげだったのですね。
※ペプチドは日本酒の中でも純米酒に多く含まれています。
日本酒の適量は、1日1合が目安だと言われています。
健康効果を上手く取り入れるためにも、適量を守って飲みたいですね。
オススメその2 「納豆」
発酵食品の代表格でもある納豆。
現在では色々な種類の納豆が販売されており、昔から「納豆時の医者要らず」と言われるほど、納豆が健康によい食品であることは、みなさんもご存知でしょう。
納豆は日本の食卓に密接に関わっており、昔は秋から冬にかけて食べる習慣がありました。
納豆の仕込みが始まると毎日納豆が食卓に出てくるので、病気への抵抗力も強くなり、医者にかかる人が少なくなっていたことから、「納豆=健康によい」とされていました。
この納豆を作るのに欠かせないのが「納豆菌」。
この納豆菌は枯草菌の一種で、空気中や枯れ草、稲わらなど身近なところにたくさんいます。熱や酸性に強く(熱湯や胃酸にも負けない)、-100℃や真空状態でも生存するという話もあり、「宇宙でも死滅しない」などと一時話題にもなりました。
実はこの納豆菌、腸内に存在する善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌の大好物だったのです。
納豆菌は胃酸に強いので、生きたまま腸にたどり着くことができます。
腸にそのまま届いた納豆菌は、腸内の善玉菌のエサとなり腸内環境を善玉菌優勢に導くことができるというわけです。
そして納豆菌は、発酵によって増殖するときに各種ビタミンや酵素類を作りだし、栄養価が高い食品にしてくれるのです。
納豆には、健康成分としてナットウキナーゼというたんぱく質分解酵素も含まれています。血栓症抑制効果が認められているので、脳梗塞や心筋梗塞の予防期待できることから、成人病の予防も期待できます。
納豆は、原材料である大豆に大豆イソフラボンが含まれており、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)と似た構造をしていることから、似た働きをする作用があり注目されています。カルシウムやカルシウムの骨への吸着を助けるビタミンK2も豊富で、葉酸・ミネラル・食物繊維を含むので、骨粗しょう症の予防や体脂肪・更年期障害の緩和や美肌に繋がるなどから、健康を意識する女性にも大人気な食品です。
オススメその3 「キムチ」
韓国の定番料理で、世界五大健康食品の1つに認定されているキムチは、野菜を発酵させて作った食品で、植物性の乳酸菌を含む発酵食品です。
この植物性の乳酸菌はラクトバチルス菌といいます。
実はこのキムチ、ヨーグルトに匹敵するほどの乳酸菌が含まれており、驚くことにその数はなんとキムチ1gに8億個も!(発酵状況やキムチの種類による)
「キムチ=発酵食品」だと思われがちですが、実は日本で売られているキムチのほとんどが
発酵していないキムチだということをご存知でしたでしょうか?
キムチには「発酵キムチ」と「非発酵キムチ」が存在するのです。
非発酵キムチは、酸味と辛さが弱くあっさりしている浅漬けタイプなので、日本人の好みに合いやすく、スーパーでも色々な種類が販売されています。
しかし、名前の通り「非発酵キムチ」なので、製造過程で発酵していないため、乳酸菌は含まれていません。
一方、本来のキムチ(発酵キムチ)は、塩漬けにした白菜などの野菜に薬味を加え、低温発酵させたものです。乳酸発酵しているので、乳酸菌が豊富に含まれ、腸内環境を整えるのに役立ちます。しかし酸味が強く、辛みも強いので好みがわかれるかもしれません。
生きたまま腸に届きやすい植物性乳酸菌が豊富に含まれているので、腸内の善玉菌を増やす手助けをしてくれます。それにより、腸内環境が善玉菌優勢へと導きます。更に野菜の食物繊維との相乗効果で便秘にもよいとされています。
その他、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンがアドレナリンを分泌するため、代謝をあげたり脂肪を分解する役目を果たします。辛いものを食べると身体が温まってくるのがそうです。
生きたまま腸に届きやすい植物性乳酸菌が豊富に含まれているので、腸内の善玉菌を増やす手助けをしてくれます。それにより、腸内環境が善玉菌優勢へと導きます。更に野菜の食物繊維との相乗効果で便秘にもよいとされています。
その他、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンがアドレナリンを分泌するため、代謝をあげたり脂肪を分解する役目を果たします。辛いものを食べると身体が温まってくるのがそうです。
自分に合った発酵食品を
このように、発酵食品には様々な種類があり、また健康や美容に嬉しい機能もそれぞれです。
健康的な食事に気をつかい、「身体にいい」と発酵食品を摂取していても、実は身体に合わず、腸の不調に繋がってしまうことはよくあること。
確かに発酵食品は身体にとって有益な機能を発揮してくれますが、腸内フローラが人それぞれ違うように、発酵食品もそれぞれ合うものが違うのです。
乳酸菌は腸の環境を整えてくれますが、体質に合っていないとせっかくのよい働きが逆効果になってしまうのはもったいないですよね。
日本酒や納豆、キムチは身近な食品で、いつでも購入できるので比較的取り入れやすいです。
乳酸菌は、食物繊維と一緒に摂取すると乳酸菌がパワーアップするとも言われています。
日本酒が苦手な方も、最近では炭酸が入ったスパークリング日本酒や、ジュースや紅茶、乳酸飲料やアイスキャンディーなどで割ったりと一味違った飲み方もできますので、一度試されてはいかがでしょうか。
私たちヒトにとって乳酸菌はなくてはならないもの。
腸内フローラも、1日ではどうにもなりません。
自分に合った発酵食品を毎日少しずつ食べて飲んで、徐々に腸内環境を整え、健康や美のサポートを!