日本酒造りの発酵メカニズム
日本酒は、米と麹と水を原料とし、アルコール発酵させたものです。アルコール発酵は、糖分をアルコールと二酸化炭素に変える代謝プロセスです。その代謝プロセスに、欠かせないのが「酵母」です。
実は、日本酒の原料である米には糖分が含まれていないため、アルコール発酵ができません。そこで、麹で米のデンプンをブドウ糖に変える「糖化」を行い、酵母の力で「アルコール発酵」を行っています。
アルコール発酵を利用して作られているものは、日本酒以外にビールやワインなどがあり、それぞれ原材料や発酵方法が異なります。
日本酒では、糖化とアルコール発酵を同時に同じタンクで行う「並行複発酵」という技術が使われています。並行複発酵は、世界でもあまり行われない高度な醸造方法で、これによって高アルコールの醸造酒がつくられます。
日本酒造りの工程
「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」
日本酒に詳しい方は知っているかと思いますが、この言葉は、日本酒の製造過程において、とっても大事なことを言っています。
日本酒は、米を発酵させてつくられる醸造酒です。ところが、その製造過程はあまり知られていません。米にはアルコール発酵に必要な糖分がないため、まずは米を麹菌の酵素で糖分に変え、そこに酵母を加えて発酵させるという巧妙で複雑な仕組みによって日本酒が造られます。
「一麹」とは「麹造り」のことを、「二酛」とは「酒母造り」のことを、「三造り」とは「もろみ造り」のことを指しています。
米麹造り
蒸米に黄麹菌を植えて米麹を造ります。米麹は、米に麹菌を加えて菌を培養させたものです。
米には糖分がなく、そのままの状態では発酵しないため、米に含まれているデンプンを糖へと変換する必要があります。米麹は、酒母や、もろみにいれて米のデンプンを糖化していく役割を果たします。
また、それだけでなく、他にもさまざまな酵素を作り出します。この酵素により、ビタミンやアミノ酸などが生成され、これらが酵母の栄養になったり酒にコクを与えます。
酒母造り
日本酒造りには、アルコール発酵に欠かせない良い酵母が大量に必要です。酒母は蒸米、水、米麹に酵母を加えたもので、もろみの発酵を促すための酵母を大量に培養したものです。その文字通りその後の工程であるもろみ造りの酛(もと)なるため、酒母を上手く造ることによって酒造りの骨組みの良し悪しがでます。
もろみ造り
一般的に、もろみは数日かけて3段階に分けて造ります。
あらかじめ造っておいた酒母に、蒸米、水、米麹をそれぞれ、初添え、仲添え、留添えと3回に分けて、だんだんに仕込み量を増やして仕込んでいきます。これを「三段仕込み」と呼びます。
もろみ造りでは、糖化とアルコール発酵を同時行う「並行複発酵」が行われ、数週間かけて発酵を終え搾ると、日本酒の原酒となります。
日本酒と乳酸菌の関係
乳酸菌は、日本酒の製造工程で重要な酒母造りに大きく関係しています。乳酸菌は、代謝により乳酸を産生する細菌類の総称です。
酒母は、蒸米、水、米麹に酵母を加え、2~4週間ほどかけて酵母を大量に培養していきます。しかし、酵母は非常に弱い微生物であるため、雑菌の汚染を防止しながら酵母のみを培養するために必要となるのが「乳酸」です。
この乳酸を添加する方法によって酒母の種類が変わり、酒母育成の前期に乳酸菌を増殖させることによって乳酸を生成する「生酛系酒母」と、最初から乳酸を添加する「速醸酛系酒母」があります。
速醸酛系酒母
速醸酛系は、乳酸を人工的に加える製造法です。
近代的な製法で、仕込み水にあらかじめ醸造用の乳酸を加え十分に混ぜ合わせた上で、米と米麹を投入して酵母の培養が行われます。培養期間はおよそ2週間ほどです。現在、造られている日本酒のほとんどは、この速醸酛系で造られています。
生酛系酒母
生酛系の酒母造りは、江戸時代から続く製造法で、酒蔵に自生している乳酸菌を空気中から酒母の中に取り込んで乳酸を作らせます。酒母ができるまでの培養期間は1ヶ月。速醸酛系の倍以上の時間と手間がかかり、安定的に行ことが難しいため、現在でもこの製造法を続けているのは全国千数百蔵の中でもわずか数蔵です。
生酛系酒母と乳酸菌
生酛系酒母は、さらに「生酛(きもと)造り」と「山廃(やまはい)造り」に分けられます。
乳酸が売られていなかった江戸時代は、自然界に存在する乳酸菌を取り込むために米や米麹をすりつぶし、溶かして、乳酸菌が発生しやすい環境をつくってじっと待っていました。
米をすりつぶす作業は、「山卸(やまおろし)」や「酛すり」と呼ばれ、現在でも大勢で行う重労働です。
このような山卸作業を行うのが「生酛造り」です。
「山廃造り」は、米をわざわざすりつぶさなくても、蒸米を投入する前に、先に水の中で麹の酵素を溶かして置く製造法です。「山廃造り」ができたのは明治の後半になってからです。山卸をしなくても、材料の投入順序を変えることで同じ様に出来る、つまり「山卸を廃止した酛」ということです。
生酛造りと山廃造りでは、酒母の環境はかなり異なるため、香味も変わってきます。最近では生酛系酒母といえば、ほとんどの酒蔵が山廃造りですが、独特な香りと味わいを出すために生酛造りで日本酒を造る酒蔵もまだわずかながらあります。
どちらにしても、生酛系酒母では乳酸菌が欠かせません。
生酛系酒母は、最初は、蒸米、米麹、水で仕込み、酵母は使いません。もちろん乳酸もです。
仕込んだ米を、山卸作業ですりつぶしてどろどろの状態になるまで繰り返します。酒母の糖化が進むと、たくさんの微生物が酒母に入りこみます。
そこで登場するのが乳酸菌です。
乳酸菌は糖分から乳酸をつくり、酒母の中はほぼ乳酸菌だけになります。そして、乳酸菌は自分が出した乳酸で死んでしまい酒母の中は乳酸と糖だけになり、ほとんどの菌類は生存不可の過酷な環境になります。そこに、乳酸耐性をもつ酵母が投入され、酵母は糖をエサにしてゆっくり増殖していきます。
このように、日本酒の製造工程の中で重要な酒母に欠かせないのが「乳酸菌」なのです。また、日本酒にコクを与えるのも乳酸菌が生成する乳酸なのです。
菊正宗の歴史から生まれた「進化系乳酸菌」
日本酒の製造工程で欠かすことのできない乳酸菌。
乳酸菌自体が腸の健康維持に有効であることは、有名な話です。そして、一部の乳酸菌には、アトピーやアレルギー、さらには免疫効果・美容効果など様々な「効果」を発揮する乳酸菌がいることも良く知られるようになりました。そして、その効果を最大限にするには、乳酸菌と腸の相性がポイントとなります。菊正宗は、350年以上も続く伝統的な日本酒造りの歴史から日本人に合う「進化系乳酸菌」を発見しました。
まとめ
微生物は目に見えない小さな生き物のことで、乳酸菌も微生物に属する細菌の一種です。
日本酒造りを支える微生物は麹菌に酵母に乳酸菌です。
麹菌とは米麹をつくる際に蒸米に繁殖するカビで、もともと麹菌は自然界の中では稲の穂先に黒い固まりとしてついていたそうです。もちろん、麹菌だけでなく他の有害な菌も一緒についていたはずです。しかし、麹菌はアルカリ性でも生息できることから、蒸米に木灰を振りかけてアルカリ性にして麹菌だけを繁殖させ種麹を作り、実際の日本酒造りでは種麹の胞子を蒸米に振りかけることで米麹をつくります。酸性の環境でも繁殖できる酵母や乳酸をつくる乳酸菌など、微生物の性質を利用して日本酒は造られているのです。