日本酒は、米・麹・水というシンプルな原料から生まれる、日本の伝統的な醸造酒です。この洗練された製造過程、特に「酒母(しゅぼ)造り」には、私たちが現代の健康や美容の悩みを解決するヒント、すなわち「乳酸菌の力」が凝縮されています。
350年以上の歴史を持つ日本酒造りの知恵は、子どものアトピーや大人の肌荒れ、アレルギー症状といった日々の悩みに、どのように役立つのでしょうか。この記事では、米と乳酸菌の深い親和性を紐解き、伝統的な製法に隠された「日本人の体質に合った乳酸菌」の秘密と、その現代的な可能性について、専門的な視点から解説します。
【専門的な考察の視点】
菊正宗は、350年以上にわたり日本酒造りの伝統を守り続ける中で、麹菌、酵母、そして乳酸菌という微生物の力を活用してきました。本記事は、この長年の知見に基づき、乳酸菌が健康と美容にもたらす可能性を考察しています。
日本酒造りを支える微生物たち:麹・酵母・乳酸菌の役割
日本酒造りは、「一麹、二酛、三造り」という言葉に象徴される、微生物の共同作業です。特に、麹菌と酵母の働きを支えるのが乳酸菌です。
並行複発酵:世界に類を見ない高度な醸造技術
日本酒の原料である米には糖分がないため、まずは麹菌の酵素でデンプンをブドウ糖に変える「糖化」が必要です。同時に、酵母がそのブドウ糖をアルコールに変える「アルコール発酵」を行います。
日本酒造りは、この糖化とアルコール発酵を同じタンクで同時に行う「並行複発酵」という、世界でも珍しい高度な技術によって成り立っています。この技術によって、高濃度のアルコールを生成できるのです。
酒母(もと)造りの鍵:乳酸菌の「酸性バリア」
日本酒造りの「二酛(にもと)」、つまり酒母造りは、大量の酵母を培養する重要な工程です。しかし、酵母は非常に弱い微生物であるため、酒母の中で雑菌が繁殖してしまうと健全な発酵ができません。
ここで重要な役割を果たすのが乳酸菌です。乳酸菌が生成する乳酸によって酒母が酸性に傾くことで、ほとんどの雑菌が死滅し、乳酸に耐性を持つ酵母だけが安全に増殖できる環境が整います。この乳酸は、日本酒のコクや深みを与える要素ともなります。
伝統の知恵「生酛造り」に学ぶ乳酸菌の力(深掘り解説)
乳酸を添加する方法は「速醸酛系酒母」が主流ですが、江戸時代から続く「生酛系酒母」の製法には、乳酸菌の自己増殖を促す伝統の知恵が詰まっています。
生酛・山廃造りのプロセスと過酷な環境
- 生酛(きもと)造り:米や米麹をすり潰す「山卸(やまおろし)」という重労働を通じて、酒蔵に自生する乳酸菌を自然に取り込み、乳酸を生成させる製法です。
- 山廃(やまはい)造り:「山卸」を廃止し、材料の投入順序を変えることで乳酸菌を増殖させる簡略化された製法です。
生酛系では、乳酸菌が酒母に侵入し乳酸を大量に作り出します。その結果、酒母内は乳酸菌すら死滅するほどの過酷な酸性環境となり、雑菌は淘汰されます。この環境変化を生き抜き、最後に増殖するのが乳酸耐性を持つ強い酵母です。このプロセスは、自然の力を利用した、まさに菌の生存競争であり、乳酸菌の持つ殺菌力と環境調整能力を最大限に活用した知恵と言えます。
【専門家からの考察】
伝統的な生酛造りにおける乳酸菌の働きは、現代の腸活における「バイオジェニックス」の考え方にも通じます。乳酸菌自体が生体に有益な物質を生成し、あるいは菌体そのものが免疫システムに働きかける作用です。日本酒造りを通じて、私たちは古くから米由来の微生物が持つ環境調整能力と、その有用性を経験的に理解していたと言えるでしょう。
日本人の体質と「米由来乳酸菌(LK-117)」の親和性
日本酒造りの主原料は「米」であり、この工程で活躍する乳酸菌は、米という穀物由来の環境で育まれた菌です。
植物性乳酸菌と日本人の腸
日本人は、味噌、醤油、漬物といった植物性発酵食品を中心とした食文化を長く続けてきました。そのため、ヨーグルトなどに多い動物性乳酸菌よりも、米や野菜などの植物由来の乳酸菌の方が、日本人の腸との相性が良い可能性が示唆されています。
伝統の知恵から生まれた「乳酸菌(LK-117)」
菊正宗は、この伝統と米と乳酸菌の深い関係に着目し、長年の研究を通じて、米由来の「LK-117乳酸菌」を発見しました。
この乳酸菌は、神戸大学・兵庫県工業技術センターとの共同研究において、以下の多様な有用性が示唆されています。
- アトピーや花粉症などのアレルギー症状への有用性
- 乱れた免疫バランスの調整作用
- 腸内環境を整える整腸作用
これは、LK-117乳酸菌が、単なる整腸作用に留まらず、アレルギー体質に傾いた体の土台づくりをサポートし、健康と美容に貢献する可能性を示しています。長年の酒造りから生まれた米由来の乳酸菌は、日本人のライフスタイルに手軽かつ有効な手段として取り入れられる可能性を秘めています。
まとめ:伝統と科学で健康の土台を築く
日本酒造りの精緻な技術は、麹、酵母、そして乳酸菌という微生物の持つ驚くべき力を現代に伝えています。特に、伝統的な製法である「生酛造り」は、乳酸菌が雑菌を淘汰し、強い生命力を持つ酵母を育むという、微生物の生存競争の知恵を教えてくれます。
この米と乳酸菌の親和性を背景に生まれた米由来の乳酸菌(LK-117)は、現代人が抱えるアレルギーや整腸といった悩みの解決をサポートし、体の内側から健康な土台を築く可能性を秘めています。日々の食生活に、この伝統と科学に裏付けられた乳酸菌を意識的に取り入れてみましょう。
合わせて読みたい関連記事
よくある質問(Q&A)
日本酒造りにおいて、乳酸菌の主な役割は何ですか?
日本酒造りにおいて、乳酸菌は特に酒母(もと)造りで重要な役割を果たします。乳酸菌が生成する乳酸は、酒母の中でアルコール発酵に必要な酵母を雑菌から守り、健全に培養するための環境(酸性)を作り出します。また、乳酸は日本酒にコクを与える要素でもあります。
米由来の乳酸菌が日本人の体質に良いと言われるのはなぜですか?
日本人は古くから米を主食とし、米を原料とする味噌や醤油、漬物といった植物性発酵食品を摂取してきました。そのため、動物性乳酸菌よりも、米由来の植物性乳酸菌の方が、日本人の腸内環境や体質と相性が良い可能性が示唆されています。
日本酒に含まれる乳酸菌は、健康に良い影響を与えますか?
日本酒の製造過程で乳酸菌は重要な役割を果たしますが、最終的にできる日本酒の多くは加熱殺菌(火入れ)されているため、生きた乳酸菌は含まれていません。しかし、日本酒造りの知恵から生まれた米由来の乳酸菌自体は、免疫調整作用など、健康に有用な機能を持つことが研究で示唆されています。









