人の腸内に棲む乳酸菌とビフィズス菌
私たちの腸内に存在している善玉菌には、乳酸菌やビフィズス菌があります。
乳酸菌やビフィズス菌は、様々な形態で経口的に摂取することで体に良い作用をもたらすことから、健康維持に活用されています。実際に、プロバイオティクスとして乳酸菌やビフィズス菌を用いた多くの商品が販売されています。
乳酸菌やビフィズス菌と聞いて、真っ先にイメージされるのがヨーグルトではないでしょうか。
今は、ヨーグルトの種類も増え、スーパーやコンビニに行くとたくさんのヨーグルトが並んでいます。パッケージをよく見ると、同じヨーグルトでも「乳酸菌」と表示しているものもあれば、「ビフィズス菌」と表示しているものもあります。
乳酸菌とビフィズス菌はどちらも善玉菌の一種なので同じものに思われがちですが、生物学的には異なった種類の菌に分類されます。
乳酸菌について
乳酸菌とは、糖を発酵して大量の乳酸を作る細菌類の総称です。
乳酸菌は、古くからヨーグルト、チーズ、漬物、清酒、などの発酵食品の製造に利用されてきましたが、長年の研究により乳酸菌の持つ有用な機能が科学的に証明されるのに伴い、近年では、人の健康に対する効果が注目を浴びるようになりました。
乳酸菌は、人や動物の体をはじめ、環境中の様々な場所に存在しており、一口に乳酸菌と言っても性質が異なる多くの種類が混在しているため、健康に対する効果もさまざまです。
ビフィズス菌について
ビフィズス菌とは、Bifidobacterium属に属する菌のことです。
Bifidobacterium属は、糖から乳酸と酢酸を作ります。ビフィズス菌も乳酸菌の一種として考えられていましたが、乳酸菌は分類学的に厳格に定義されているものではなく、糖を分解して50%以上の乳酸を作り出す菌の総称、一方、ビフィズス菌は糖を分解して乳酸を作り出しますが、それ以外に酢酸も作り出します。そのため、現在では、ビフィズス菌は乳酸菌とは異なる種類として考えられています。
ビフィズス菌は、主に人や動物の腸管に棲息していて、人の腸内では乳酸菌と同じく善玉菌として分類されますが、数量的には成人の腸内の善玉菌の99%以上がビフィズス菌です。
ビフィズス菌には、人から分離される菌種と動物から分離される菌種に違いがあり、人の腸内(糞便)から分離されるビフィズス菌は、主なものが7種類、全部で約10種類になります。
人の腸内細菌の構成は人それぞれ違うので、どの種類の菌がどれくらいの数いるのかは、専門機関で糞便を分析してみないと分かりません。一人ひとりについて見ると2~4種類のビフィズス菌が検出されるようです。
乳酸菌とビフィズス菌の違い
ビフィズス菌 | 乳酸菌 | |
棲息場所 | 人・動物の腸管 | 人・動物の腸管 + 発酵食品 + 自然界 |
菌の形 | 多形性 (分枝、こん棒状など) |
桿状又は球状 |
菌の強さ | 酸素や強い酸性に弱い | 菌種によっては酸素や強い酸性に強いものもある |
主な代謝産物 | 乳酸 + 酢酸 | 乳酸 |
嫌気性菌※ | 偏性嫌気性 (酸素があると生育できない) |
通性嫌気性 (酸素があっても生育できる) |
※嫌気性菌・・・生育に酸素を必要としない細菌
乳酸菌は、人や動物の腸管以外に、乳製品や漬物など一部の発酵食品や自然界の様々なところで棲息しているのに対し、ビフィズス菌の棲息場所は主に人や動物の腸管です。ビフィズス菌は、乳酸菌と違って酸素があると生育できない(偏性嫌気性)ため、人の腸管でも酸素のない小腸下部から大腸に棲んでいます。
また、ビフィズス菌はBifidobacterium属に属する菌のことですが、このBifidobacterium(ビフィドバクテリウム)は「分枝した小桿菌」を意味します。乳酸菌は、形が桿状または球状であるのに対して、ビフィズス菌の多くは、分枝状・V字状・Y字状・こん棒状・球桿菌状・湾曲状など、不規則な形態や配列をしています。
大きな違いとしては、ビフィズス菌は乳酸よりも酢酸を多く作るという点です。酢酸は乳酸よりも腸内を酸性にする力が強く、アルカリ性の環境を好む悪玉菌の増加を防ぐ力が強いのが特徴です。
乳酸菌とビフィズス菌はどっちが良いの?
健康維持のためには、善玉菌が優位な腸内環境を保つことはとても重要です。
理想的な腸内環境は、善玉菌と悪玉菌と日和見菌の割合が「2:1:7」とされています。しかし、成人期には腸内細菌の10~20%を占めていた善玉菌は、加齢とともに減少し、老年期には0~1%になってしまいます。また、加齢以外にも食生活やストレスなどによっても減少します。
そのため、腸内の善玉菌の99%を占めるビフィズス菌を積極的に増やすことが必要となります。
だからといって、ビフィズス菌を積極的に摂取しても腸に定着することはありません。
腸内のビフィズス菌を積極的に増やす方法としては、以下の3つが注目されています。
- プロバイオティクス
- プレバイオティクス
- バイオジェニックス
プロバイオティクス
プロバイオティクスは、「腸内フローラのバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義され、生きた乳酸菌やビフィズス菌を含み、食べた人に良い影響を与える食品(ヨーグルト、納豆、サプリメント、漬物など)なども該当します。
しかし、どんなでも菌でも摂ればいいというわけでなく、菌の種類や株によっても効果が違い、科学的にそれらの効果が証明されたものに限られます。また、生きたビフィズス菌を摂らなくても、乳酸菌を摂取することで腸内環境が改善され、ビフィズス菌が増えることもわかっています。
乳酸菌やビフィズス菌に関係なく、菌がもつプロバイオティクスによって、もともと私達の腸に棲息しているビフィズス菌が活性化されるのです。
プレバイオティクス
プレバイオティクスとは、「プロバイオティクスの働きを助ける食品成分」で、ビフィズス菌のエサになったりして腸内環境を改善するものです。代表的なものとしては、消化・吸収されにくく大腸まで届く難消化性のオリゴ糖や食物繊維などがあります。オリゴ糖はビフィズス菌のエサになり、食物繊維は便のかさを増したり排便を促して腸内環境を改善する働きがあります。
プロバイオティクスとプレバイオティクスは、同時に摂取することでより効果的に、さらに、最近では、このプロバイオティクスとプレバイオティクスをバランスよく摂取する、または、両方を含む食事や食品を摂取する「シンバイオティクス」というもの注目されています。
バイオジェニックス
バイオジェニックスは、プロバイオティクスやプレバイオティクスが「腸内フローラのバランスを改善して人に有益な作用をもたらす」のに対して、「直接、あるいは腸内フローラを介することなく人に有益な作用をもたらす」というものです。
生きたまま腸まで届く菌の方がいいというイメージがありますが、生きた菌でなくても、加熱殺菌済みの乳酸菌の菌体、乳酸菌が作り出す物質などにも整腸作用あり、ビフィズス菌を増やす効果があることが確認されています。
また、バイオジェニックスには「品質の安定性」「商品の多様性」「効率よく菌数を摂取できる」などのメリットもあります。
常に菌がいる状態にしておくことが大事
プロバイオティクスとして開発された乳酸菌やビフィズス菌は、基本的には生きたまま腸に届きます。しかし、たとえヒト由来のビフィズス菌で定着しやすい菌だとしても、他人から見つかった菌が自分の腸に定着することは難しく、摂取しても数日で排出されてしまいます。効果を得るためには毎日習慣的に摂取を続け、常に菌がいる状態にしてあげることが大事です。
また、生菌として摂取して、腸に届くまでに胃酸などで死んでしまったら意味がないように思われがちですが、死んだ菌でももともと腸内に棲息する善玉菌のエサになるためプレバイオティクスが期待できます。
まとめ
乳酸菌とビフィズス菌はどちらも善玉菌の一種ですが、人や動物の腸管以外に、乳製品や漬物など一部の発酵食品や自然界の様々なところで棲息している乳酸菌に対し、ビフィズス菌の棲息場所は主に人や動物の腸管です。腸内の善玉菌の99%を占めているのはビフィズス菌であるため、ビフィズス菌を摂取するほうが効果的なように思われがちですが、腸内の善玉菌を増やすプロバイオティクスは、どちらが優位というわけではありません。
乳酸菌とビフィズス菌のどちら良いというわけではなく、菌の種類や状態によって効果の違いがあるため、自分の目的に合った効果が期待できるものを選ぶことが大切です。